第3章 セイロウ島
「彼のチェロを聴くのが好きだったわ……それを聴いているマダムも。あんなに幸せそうだったのに」
「もう言ったってどうにもならないでしょう。もう誰にも、どうにもできない」
「……せめて私達は、マダムのそばにいなきゃ」
それがせめてできることだと確認しあって、サロン・キティの女たちは頷いた。
数カ月後。シェレンベルクの公開処刑は見物人もほとんど集まらぬ中、インペルダウンでひっそりと行われた。
けじめとしてその最期に立ち会いに行ったマダム・シュミットは、絞首台から彼が落とされた瞬間、その場に泣き崩れたという――。
それを知ってか知らずか、シェレンベルクの死に顔はわずかに微笑んでいたそうだ。
マダム・シュミットはシェレンベルクの遺体を引き取り、セイロウ島の墓地に埋葬した。文句を言いながらも墓参を欠かさず、自分の死後はその隣に埋めてくれと言い残し、生涯独身を通した。
マダム・シュミットの死後、シェレンベルクの墓碑には一文が加えられた。マダム・シュミットが最初に建墓した時に入れようとして、あとから辞めると言い出した一文だった。
シュミット・キティがこの世で唯一愛した男、と――。