第3章 セイロウ島
そこまでバカじゃないだろうと思いつつ、男なんて結局みんなアホだからどうなるかはわからない。マダムは明言を避けた。
「男と女なんて、出会ったその日に恋に落ちることもあれば、何年一緒にいようと結局くっつかずに終わることもあるさ。あたしは占い師じゃないんでね。他人の惚れた腫れたに興味もない。――さあ、話はこれで終わりだよ、ジル。本館の建て直しやら、仕事が山積みなんだ」
応接テーブルに置かれたままの新聞を見やって、ジルは特にねばりもせずに退室した。
「……まったく騒がしい娘たちだよ。それで気を使ってるつもりかい」
ぼやいてマダムはソファに座り込む。仕事が山積みなのは事実なのに、ひどく疲れて、動ける気がしなかった。
◇◆◇
「……どうだった、ジル?」
ロビーで待ち構えていた娼婦たちが、心配してジルを取り囲む。だがサロン・キティで最も聡明で人気ナンバー1の娼婦は、残念そうに首を振った。
「ダメね、全然元気がない。いつものマダム節の半分もキレがなかったわ」
どうしよう、と女たちは動揺した。
「やっぱりシェレンベルクのことが堪えてるんだわ……」
「今度は間違いなく公開処刑でしょう? 前はマダムが取りなして、それだけは避けられるようにしたのに……」
「助命の嘆願書でもみんなで書く……?」
「でもそれって、逆効果じゃない? 彼に殺された子供の親からしたらたまったものじゃないわ。マダムは絶対するなって言いそう……」
どうしたらいいんだろうと女たちは思い悩んだ。
シェレンベルクはマダム・シュミットが自ら出迎える、唯一の客だった。連絡があるとマダムは数日前からそわそわして、いつもより掃除のチェックが厳しくなった。
「どうしてこんなことになっちゃったのかしら。彼、いい人だったのに……」
「しっ。そんなこと聞かれたらどうするの? の傷見たでしょう? あの子の前でそんなこと言える?」
「それは、もちろん言えないけど……」
娼婦たちにとってシェレンベルクは上客だった。
酔って暴れたことなんて一度もなければ、土産の花や菓子は必ず娼館の全員分を買ってきてくれた。一人ひとりの名前をきちんと覚え、タチの悪い客が居着いたときには率先して追い出してくれ――。