第10章 一以貫之【イツイカンシ】
「なあ、……最後に俺の願いを一つだけ叶えてくれるか?」
の大きな瞳がぱちぱちと瞬く。
「若君を頼む。
あの子は信長様の子であり、俺の子だ。
秀吉達に護って貰い、健やかに、真っ直ぐ……
誰よりも強い子に育ててやってくれ。」
「ん……ん゛っ……」
ここに来て漸くは力強く頷いてくれた。
「……
お前と信長様に出会えて、俺の人生は存外に幸福だった。
暗躍を続け、路傍で人知れず野垂れ死ぬのが相応であったこの俺が、
まさかこれ程に満ち足りた想いを抱いて逝けるとは思ってもいなかった。
お前のお陰だ。
…………ありがとう。」
するとは俺の頬に優しく口付けてから、涙に塗れたまま破顔する。
その屈託の無い愛らしい笑顔に俺が見惚れていると………
「あ……りが…と。
あい…し…て……る…
みつひで…さ……」
堪らず、の身体を引き寄せて力の限り抱き締めた。
「俺もっ……
愛していた……
いや、この先もずっと。
……お前を愛している。」
俺にはもう、この先など無い。
だが言わずにはいられなかった。
己の人生で唯一最愛の女が潰れた喉から声を絞り出し、俺を愛していると…そして俺の名を呼んでくれたのだ。
もう一欠片の悔いも在りはしない。
俺は……笑って逝ける。
俺の背に回ったの両腕にくっと力が籠もった時、俺はもう二本の靭やかで力強い腕の存在を確かに感じた。