第10章 一以貫之【イツイカンシ】
俺は一人、自室の縁に腰を下ろし盃を傾けていた。
見上げれば夜空には見事な満月。
人生最後の夜としては充分過ぎる程の美しい景観に、俺は自然と笑みを漏らす。
結局四人は苦渋を滲ませながらも俺の策を受け入れた。
「明朝だ。
明朝、光秀の処刑を安土城門で決行する。
城下の民達に謀反人、明智光秀の処刑を見届けさせなければ意味が無い。
俺が………
俺自身の手でお前の首を落とす。
良いな……光秀?」
全員を……いや、己自身を説き伏せる様に声を上げた秀吉の目は明白に潤んでいた。
自分が処刑されると宣言されているにも関わらず、俺は四人の顔を見渡し柔らかく微笑んで告げた。
「ああ、有り難い。
豊臣秀吉の手に掛かって死ねるのであれば俺は本望だ。」
その時、自室の襖が開いた気配を感じ振り向き見れば、其処に立って居たのはだった。
「……奥方様。」
そう呟く俺を見咎めたは、此方に向かって駆けて来る。
「どうされたのですか、奥方様?」
穏やかな声で問い掛けてみれば、は膝を付いて俺に縋り付き「違う」「止めろ」と言わん許りに首を振った。
そんなの態度に俺は一つ息を漏らすと、その相も変わらず艶やかな頬をそっと撫で顔を寄せる。
「秀吉に聞いたか……?」
は頷きもしなかったが、その眦から涙を溢れさせた事で全てを悟ったのだと理解出来た。