第10章 一以貫之【イツイカンシ】
文月の半ば、漸く落ち着きを取り戻しつつある安土城の広間に、俺は秀吉、政宗、家康、三成の四名を秘密裏に召集する。
「………は?
何言ってんだ、光秀?」
「謀反を起こし、本能寺で信長様を襲撃した罪人として
俺の首を獲れ……と言っている。」
揶揄っているとでも思ったのか、薄ら笑いすら浮かべて問う秀吉に俺は至極真面目に返答した。
「馬鹿な事を言ってんじゃねえ!
お前の首を獲るなんて出来る訳がねえだろうがっ!」
「そうですよ。
光秀さんがそんな事をする必要は無い。」
分かり易く激昂する政宗と、震える声で俺を諭す家康。
三成は驚きで声も出ないのか、目を見開いたまま固まっていた。
そしてそんな中でもやはり秀吉は冷静だった。
「何故だ、光秀。
俺達にも理解出来る様にきちんと説明しろ。」
そんな秀吉を見るに付け、俺は本当にこの男が安土に居てくれて良かったと心底安堵する。
「もうそろそろ信長様が本能寺で討たれたと日ノ本中に知れ渡った頃だ。
そうなれば当然、下手人は誰だ、この先の安寧は大丈夫なのかと
時勢は混乱を極めるであろう。
そして、では次の天下人は誰なのだ……とな。」
ここ迄言えば、聡い此奴らには理解が追い付いた様だ。
「俺達には本当の下手人すら掴めていない。
だがそれでは駄目なのだ。
下手人は織田信長の家臣、明智光秀。
明智光秀が天下人という欲に目が眩んで軽率に起こした謀反であると、
そしてその浅はかな謀反人は既に織田軍が捕らえ
処刑を済ませたと世の中に知らしめる必要がある。
織田は盤石だと、信長様の後は豊臣秀吉が天下人であると
知らしめなければならぬのだ。」