第5章 千慮一失【センリョイッシツ】
城内に戻った俺は己の持てる術全てを駆使し、信長様の居所を探ろうと躍起になった。
当然間諜共にも指示を出し、どんな些細な情報でも手に入れろと檄を飛ばす。
そうこう慌ただしく動いている内に支度の整った三成が俺の所に出立の報告にやって来た。
「光秀様……
では私はこれから秀吉様と合流すべく出立致します。」
「ああ……頼んだぞ、三成。
何としても信長様を無事に取り戻してくれ。」
「はい。
全身全霊で尽くします。
しかし…………」
ここで三成は悔しさを顕に唇を噛む。
「………どうした、三成?」
静かな声で先を促した俺の目をぎりっと見据えた三成が捲し立てた。
「信長様は本当に御無事なのでしょうか?
敵だって信長様を生かしておけばおく程、
自分達の状況が不利になるのは理解している筈です。
為らば攫った後、直ぐにでも………」
「止めろ、三成!」
三成の肩がびくりと跳ね上がるのを見て俺は続ける。
「あの信長様がそう簡単に命を落として堪るものか。
必ず生きている。
だからお前は早急に秀吉の元へ………」
その時、俺の背後でばさりと音がした。
驚いて振り向いて見れば、其所には手に持っていたであろう書物を取り落とし、呆然と佇むが居る。