第5章 千慮一失【センリョイッシツ】
「信長様が攫われた!?」
真っ青な顔をして息を切らせた秀吉が告げた言葉を俺はそのまま復唱する。
「ああ、あと少しで彼奴らに追い付くという所で
いきなり脇から急襲を仕掛けられたんだ。
彼奴らは俺達と遣り合う気なんか全く無くて
只、信長様を攫う為だけに襲って来やがった。
余りに予想外の襲撃だった……
それから彼奴らを甘く見てた傲りもあったのかもしれねえ…
……畜生!」
信長様が姿を消した後、それを城に伝える為に馬で駆け戻った秀吉は疲労困憊ながらもその目には抑え切れない怒りが漲っていた。
政宗と家康は今も全力で信長様の捜索に当たっているらしい。
確かに『織田信長』という人間は、命が在っても無くても取引相手に最高の条件を引き出させる事の出来る質だ。
だからこそ彼奴らの考えが読めない。
信長様を生かしておくのか……
それとも移動の邪魔に成らぬ様、さっさと首だけにして仕舞うのか……
「兎に角、人手が足りねえ。
支度が出来次第、三成も此方に寄越してくれ。」
「ああ、分かった。」
俺が素直に秀吉の言葉に頷くと、秀吉の目が苦し気に細められる。
「それから………の事も頼む。
最悪の事態を想定して、にはまだ何も知らせない方が良いだろう。」
「………そうだな。」
こうして俺は神妙な面持ちで再び駆け出した秀吉を見送った。