第1章 妄想之縄【モウゾウーノーナワ】
「失礼致します。」
許可を得て天主に入った俺に信長様がちらりと視線を向け問うて来る。
「随分と騒がしいな。
またが秀吉を困らせておるのか?」
「はい、そのようです。
何時も通りの追い駆けっこが始まっておりました。」
「くくっ……
本当ににも困った物だ。」
そんな物言いをしながらも信長様の表情は穏やかで優し気であった。
この近隣諸国では第六天魔王と呼ばれ恐れられる我が主君がこんな顔をする様になったのは、紛れもなくが安土に現れてからだ。
そして信長様とが愛し合う様になってからは、日に日にその様は如実になって行く。
「……そんなが、可愛くて仕方無いのでしょう?」
自分でも無意識の内に吐き出されて仕舞った言葉。
俺自身驚き、棘がある様に聞こえて仕舞ったか…と信長様を見やれば、信長様は俺に探るような視線を向けていた。
「申し訳ありません。
失礼な事を……」
出来るだけ平静を装いそう詫びると
「いや……光秀の言う通りだ。
俺はが可愛くて、愛おしくて堪らぬ。
……俺以外の誰にも触れさせたく無い程にな。」
信長様は含みの在る笑顔で答える。
柔らかい声色で穏やかに紡がれた言葉であった。
それなのに俺は……
信長様に酷く釘を刺された気がして、その後斥候からの報告を告げる間中、じっとりとした居心地の悪さに耐え続けた。