第5章 千慮一失【センリョイッシツ】
「その通りだ、三成。
織田が出来ぬのなら我が国が…と、各国が我先にと挙兵するだろう。
また血で血を洗う天下取りの始まりだ。
到底織田一軍では抑え切れぬ状態になるだろうな。」
「そんなの……只の厭がらせじゃないですか!?」
「ああ……そうだ、家康。
只の厭がらせなのだ。」
珍しく声を荒げた家康に向かい、俺はゆっくりと頷く。
「全く死にたいのであれば勝手に大人しく滅せば良いものを……。
本当に愚者の遣る事は迷惑千万にも程がある。」
俺の口が紡ぎ出した可能性を疑う者は居なかった。
全員が沈痛な面持ちで眉を顰めていたその時………
「簡単な事よ。」
信長様の力強い声が響き渡る。
「俺自身が出張って、織田の名を騙る其奴らを殲滅させてくれるわ。」
「確かに……織田軍が出張って其奴らを潰せば
織田の名を騙った偽者だって証明になるな。」
一気に高揚した様子の政宗に、秀吉も続く。
「では早速兵を差し向けましょう。
信長様が出張る程の相手ではありません。
俺と政宗だけで充分かと………」
「吐かせ……秀吉!」
その声はこの場に居る全員の背筋を凍らせる程の憤怒を孕んでいた。
「彼奴らはを穢しに穢した。
それだけでも万死に価するというのに今回のこの所業。
俺の堪忍袋の許容は疾うに越えておるわ!」
信長様の緋色の瞳が更に紅く揺れている。
こうなって仕舞えばもう誰もこの織田信長を止める事など出来ようもない。
「彼奴らが武田に手を掛ける前に討つ。
明朝、出立だ。
秀吉、直ぐに兵を集め準備を進めろ。
何、それ程の人数は要らぬ。
……俺一人でも充分な位だわ。」
立ち上がりくつくつと喉を鳴らす信長様の姿を目にして、俺はこの第六天魔王をこれ程迄に激昂させたあの小国の奴らに心底同情した。