第4章 愛月撤灯【アイゲツテットウ】
「ところで……の持っていた包み、あれは何だ?」
「流石に目敏いな、秀吉。
あれは俺がに与えた饅頭だ。」
「饅頭?
夕餉前にに甘味を与えるのは止めろと何時も……」
「ああ、ああ、すまなかった。
偶々、頂戴物の饅頭が在ったのでな。
しかし……三成が兄なら、お前は過保護な爺だな……秀吉。」
俺が両手を挙げて喉をくつくつ鳴らしながら揶揄ってやれば
「爺!?
せめて父親にしてくれよ。」
秀吉は心外だとばかりに顔を赤らめて唸った。
が読んでいた御伽草紙を廊下にそのまま残して来たのは………態と、だ。
俺は態と回収せず、その場に無造作に放り出しておいた。
こうしておけばそう時を置かずして、誰かが不審に思いを探し始めるだろうと。
己の行動が暴走して仕舞う事を畏れ、いざとなれば他人の力で抑制して貰おうという卑小な策だったのだ。
結局はその策が発動されるより先に自制が効いた訳なのだが……。
そんな事を考えていた俺は
「おい、光秀。」
一際真剣な声色で俺を呼ぶ秀吉の声で我に返る。
「……何だ?」
「軍議の終いで話した件だが……」
…………ああ、『俺が』の仇を討った話だな。
「その撫斬されたっていう大名の重臣らの動きがどうも焦臭くてな。
破れかぶれの殲滅覚悟で武田に歯向かうか……
織田と同盟を結んでいた訳じゃねえから
もしかすると何処かで血迷って安土に突っ込んで来るか……。」
「何方にしても、俺達が手を煩わされる様な相手では無いだろう?」
「ああ、それは勿論そうなんだが……
死ぬ気で向かって来る輩は何を仕出かすか分からねえ。
用心しておくに越した事は無いからな。
光秀もそのつもりで居てくれ。」
「ああ、承知した。」
この時の俺は、己の仕出かした事で想定外の出来事が起こるなど全く気取っていなかった。