第4章 愛月撤灯【アイゲツテットウ】
その晩、俺はが天主に居るであろう時刻を見計らい城内の自室を出る。
慎重過ぎる程慎重に気配を殺し、天主に向かえばその入口の襖はまた不自然な隙間を開けて俺を誘っていた。
そこで俺は合点が行く。
これは信長様が繰り出している策なのだ…と。
俺だけでは無い『誰が』覗いても良い様に、は誰の物なのかを『皆』に悟らせる為に。
政宗も家康も覗いただろうか?
三成は?
秀吉は……?
彼奴らは御伽坊主の様な想いだったかもしれんな。
ならば俺も信長様の策にまんまと乗せられてやるのも吝かでは無い。
「、今日は光秀の部屋へ入ったそうだな?」
その時、いきなり飛び出した己の名に鼓動が一つ大きく鳴った。
「責めている訳では無い。
貴様が愛らし過ぎるのがいけないのだ。
皆が貴様を愛でたいと思うのは仕方の無い事。
唯………」
ここで信長様の声が一際甘さを増す。
「俺は……妬いて仕舞うぞ。」
信長様が妬く?
この安土に君臨し、どんな逆境にも全く狼狽える事無く立ち向かう信長様が?
たった一人の小娘にそこ迄惑わされると言うのか?
信長様にとってという存在がどれ程の物なのかを痛感する台詞だ。
僅かな動揺を感じながらも俺の視線は天主の中に注がれたまま固まっていた。
「貴様は誰の物だ、?」
褥に腰を下ろした信長様の腕にしっかりと抱えられたの細い人差し指が信長様の鼻先に触れる。
「……そうだな。
貴様は俺の物だ。
為らば、この第六天魔王を妬かせた仕置き
きっちり受けるが良い。」