第4章 愛月撤灯【アイゲツテットウ】
「さあ、。
そろそろ戻らねばな。
皆が心配する。」
そう声を掛けてもは名残惜しそうに俺の顔を見つめていた。
結局俺はの唇の端に付いた餡を舐め取っただけで、それ以上の事は何一つしていない。
このままを組み敷いて犯して仕舞いたいと全く考えなかったと言えば嘘になる。
だが嬉しそうに饅頭を頬張り、にこにこと微笑みながら俺を見遣るの姿を目にしただけで己の穢さが浄化されて行く気がして、この時の俺はもうそれだけで充分であったのだ。
「そんなに気に入ったのであれば持って行け。」
俺は饅頭を二つ、懐紙に包みに手渡した。
ぺこんと頭を下げた可愛らしいの背に手を添えて一緒に部屋を出た所で、廊下の先からずんずんと歩いて来る秀吉と三成に出会した。
「、光秀と一緒に居たのか。
探したぞ。」
秀吉が心底安堵した様子での頭をぐいぐいと撫でれば
「御伽草紙の書物が廊下に置き去りになっていたので
様が何処かに迷い込んで仕舞ったのではないかと
心配していたのですよ。」
三成もほっとした様に微笑む。
はそんな二人に囲まれて申し訳無さそうにぺこぺこと何度も頭を下げていた。
「良いのですよ、様。
貴女が御無事で在れば何も問題は無いのですから…ね?
信長様が様を探しておいででしたよ。
私と一緒に行きましょう。」
と同じ目線まで腰を屈めた三成に笑顔で促され、と三成は手を繋いで歩いて行く。
俺がそんな二人の背中を見送っていると
「ああやっていると三成とは仲の良い兄妹みたいだな。」
苦笑した秀吉が呟いた。
三成の想いが『妹』に対する物であれば良いのだがな。
まあ、三成自身も気付いていないだろうが……。