第3章 暗箭傷人【アンセンショウジン】
それから二月程後のある日。
安土城では何時も通りの軍議が開かれ、その終い際……秀吉が深妙な面持で切り出した。
「安土隣国のとある大名一族が撫斬にあったと報告が入りました。」
その言葉には全員が不遜に眉を寄せる。
「おい、その大名ってもしかして……」
政宗が全員の思いを代弁する様に聞き返せば、秀吉も小さく頷いた。
「ああ、あの国はずっと武田と揉めていた。
恐らくを拘禁して嬲り続けたのも彼奴らだ。」
「でも結局は確証は得られなかったのですよね?」
三成の静かな問いに、秀吉は悔しさも顕に再び頷く。
「そうなんだ。
何よりが喋れないからな。
最後の証拠が掴めない。
彼奴らもそれを見越しての喉を潰したんだろう。」
そこ迄を黙って聞いていた信長様が不意に喉を鳴らした。
「くくっ……
不思議な事もあるものだ。
………なあ、光秀?」
ここで何故俺の名が出るのか……
皆は訳が分からないとばかりに首を傾げる。
そして俺も知らぬ存ぜぬ様を作りつつ
「……ええ、全くです。」
と、不敵に笑ってみせた。
大体に置いて、秀吉も政宗も生温いのだ。
いや、生温いというより真正直と言った方が正しいのか?
あの腐り切った大名共は俺の手に掛かれば一刻も経たない内に全てを白状したぞ。
に何をしたのか……胸糞悪くなる悪行を全て。
そのを嫐った方法と同じ事をしてやっただけなのだがな。
お前らが一刻と持たなかったその苛虐に、はどれだけの時間を耐え抜いたと思っているのだ。
一刻程度で許されると思ったら大間違いだろう?
然もは喉を潰されたのに、お前らはべらべらと流暢に許しを乞えたのだからな。
撫斬にされても当然というものだ。
信長様は俺の成した事柄に気付いているのだろうか?
あの口振りだと、それなりに悟られているのだろうな。
まあ、別にそうであっても構わんが。
信長様が溺愛するの仇を討ったのだ。
褒められこそすれ、責められる道理は無い。