第3章 暗箭傷人【アンセンショウジン】
「何、折角の『三ツ者』経験者だ。
俺の間諜に使えないかと思ってな。
きっとあの女は良い仕事をするぞ。
織田の繁栄の為にも……」
「貴方は、あの身体を見ていないから……」
俺の言葉を遮りぽつりと呟く家康を見遣れば、激しい怒りを滲ませた視線で俺を睨み付けていた。
そしてその怒りは急激に暴走を始める。
「巫山戯た事を言うなっ!
俺は初めてあの娘の治療をした時、ずっと手が震えていたんだ。
どれだけ手当しても終わらない無数の疵に何度も嘔吐しそうになった。
疵の惨さの所為だけじゃない。
女としての尊厳も踏み躙られていて……
の彼所は裂けて爛れてた。
男の指や一物だけじゃない。
きっと異物も挿入されて弄ばれたんだ。
でなければあんな酷い状態になる筈が無い。
この小さな身体でこれ程の苛虐を受けて良く生きていてくれたと……
俺はっ…あの時っっ……」
取り乱す様を冷静な視線で見つめる俺に気付いた家康は今度は急激に我に返った様だ。
「はっ……はぁっ…すみません。」
「いや、構わんさ。」
「兎に角……を間諜として使うなんて、
信長様が許す筈が無いですよ。
もし例え信長様が許したとしても……俺が絶対に阻止します。
にはもう、あんな想いはさせたくない!」
家康の強い視線が俺を射貫く。
あの家康がこんな顔もする様になったとはな……
それには驚き、そして何故か嬉しくもあった。
「家康……お前もか…」
「え……?」
無意識で呟いた俺の一言は家康の耳には届かなかった。
だがそれで良い。
家康のお陰で俺が今、何よりも最初に成すべき目標が定まったのだから。
「邪魔をしてすまなかったな。
今の話は忘れてくれ。
感謝するぞ……家康。」
そう言って部屋を出て行く俺を、家康は何とも複雑な表情で見送っていた。
なあ……家康。
俺がを間諜に使うなど、在る筈が無いだろう?
俺の口を衝いて出た好い加減な出任せに、熱くなったお前が見られて存外に満足だ。
だから家康にも見せてやろうな。
俺の全身全霊を……
俺がその全身全霊で動けばどう成るのかを……
見せてやろう。