第3章 暗箭傷人【アンセンショウジン】
天主での睦事を覗き見て以来、俺の頭から離れない物が在る。
それは信長様とが繋がり合う淫靡な姿では無く、の脚だ。
悍ましい疵痕に塗れた、美しい脚。
あの吐き気を催す程の疵痕は脚だけでは無く、の全身に散らされているのだろう。
…………見てみたい。
堪らなく見てみたいと思う。
愛おしい女が持つ疵痕を、己が癒やして遣りたいと思うのは邪なのか?
今俺が心底見てみたいと思っている物を目にした事があるのは信長様だけ。
……いや、もう一人居るな。
俺の足は自然とその『もう一人』の元へ進み出した。
「邪魔するぞ。」
そのもう一人、城内にある家康の自室に俺は無遠慮に足を踏み入れる。
「どうしたんですか、光秀さん。
珍しいですね。」
家康は薬を調合する手を休めぬまま問い掛けて来た。
「少しばかり家康に聞きたい事があるのだ。」
「……何ですか?」
ここで漸く家康は不審気な視線を俺に向ける。
「の事だが……」
「……?」
「ああ、彼奴の疵は未だ痛むのだろうかと思ってな。」
家康の眉が僅かに顰められ、俺の真意を図りかねている様だ。
「……疵口自体はもう既に全部塞がっているし、
痛む事は無いでしょうね。
多少、皮膚が突っ張って仕舞う感覚はあるでしょうけど。」
「では、通常生活で負担になる様な事は無い……という訳だな?」
「勿論本人に聞いてみなきゃ分かりませんけど、
俺が診る限りでは問題無いと思います。」
「ふん……そうか。」
俺が顎に手を当て考え込む素振りをしてみせると
「………何を考えているんですか?」
家康の低い声が響く。