第1章 秋の昼下がりに瞬いた星(木葉秋紀・木兎光太郎)
あの日は大変だった。
それはそれはもう本当に大変だった。過ぎし日の忌むべき記憶に、朱花は頭痛すら覚えて再度嘆息する。
傷心の幼馴染が満足するまで、ひたすらにモンスターを狩らなければならなかったのだ。罠をうまく仕掛けられなかっただけでデコピンされるし、意識が飛んでも叩き起こされるし。
失恋のショックを和らげてあげたいのは朱花とて山々だが、あれだけはもう勘弁願いたいのが本音である。
「……ええと、秋紀、ってさ」
朱花はどうにか現状を打破しようと、努めて明るい声を出した。
「案外一途なとこあるよね。私は好きだな、秋紀のそういうとこ」
言い終えて、直後だった。
しまった。妙な言い回しをしてしまった。朱花は青ざめて口を閉ざす。木葉の瞳に浮かんだのは戸惑いと、心痛と。
「ごめん、私、…………」
居たたまれなくなって左右に彷徨わせた視線。あとに続く言葉は、見つからなかった。
「木兎、はさ、」
たっぷり三分はかかっただろうか。悠久に思えるほどの沈黙が過ぎて、木葉がほろりと呟いた。木兎はさ。彼の視線はいまだ中庭に下ろされたままである。
「そういう星の下に生まれてきたんじゃねえのかな、って、思うわ」
「……そういう星?」
「そういう星。他を惹きつける星」