第1章 秋の昼下がりに瞬いた星(木葉秋紀・木兎光太郎)
彼はなにも答えなかった。
その答えを口にしたら心臓(こころ)が破裂してしまうのだとでも言うように、苦しげな顔をするだけだった。
まいったなあ。
朱花が困惑顔をする。
普段はおしゃべり好きな幼馴染がひと言も発そうとしないのだ。唇を不機嫌なかたちに結んで。
こうなると──要するに拗ねるとだが、秋紀は貝になる。ひどいときはバイバイするまでそのまま喋らない。
高校生になってからはほとんど見ることがなくなっていた彼の習癖に、朱花はあれこれと考えを巡らせた。
巡らせて、うーんと伏せたマスカラ。
(…………う、わ、)
伏せたまつ毛の先、ランチタイムの中庭にひょこひょこと揺れる銀色の羽角を見つけた。見つけてしまった。
特徴的すぎる同級生の頭頂部を捕らえて、朱花は言いかけの「カラオケでもいく?」を呑みくだす。
木兎光太郎がいるのだ。
秋紀の元カノと、一緒に。
こりゃあ大事件だ。朱花は思う。カラオケなんぞで解決できる問題ではない。下手したら向こう三日、いや一週間、私はあれに参加することになる。
不定期開催 in 木葉家
失恋傷心なんて忘れてオールでゲームしようぜ大会に、だ。
(……引きずってるのに、なんで、よりにもよって木兎なんだか)
けっそりと嘆息した朱花の脳裏に浮かぶのは、昨年の、とある秋の日の。
恋人に別れを告げられて貝になってしまった、木葉の哀しげな横顔だった。