第1章 秋の昼下がりに瞬いた星(木葉秋紀・木兎光太郎)
「俺、木兎のこと苦手だわ」
やけに軽やかな声音だ。
彼、木葉秋紀は嘘をつくとき僅かに声が高くなる。よってこれは本心ではない。大体チームメイトとして二年半も一緒に過ごしているのに、なにを今更。
「ああ、そう」
青嶋朱花はややそっけなく言葉を返した。
二人の間にそれ以上の会話は生まれなかった。昼休みの多目的室。遠くに聞こえるのは生徒たちの談笑だろうか。
さわさわと、風。
随分と冷たくなったそれに前髪を拐われて「──……秋は嫌いだ」木葉が物憂げに呻く。彼は、窓枠越しに中庭を見下ろしていた。
ぼそりとした憂いは、哀しげな。
彼から落ちたそれを聴いて、朱花はようやくゆったりと首をもたげる。パスタサラダを食べるのは一旦おやすみ。
「秋紀なのに?」
問うた朱花の声は極々小さいが、しかし、二人しかいない空間に響くには充分なボリュームだった。
木葉から数メートルの距離に腰かけていた彼女。その両足はすでに窓際へと歩みはじめている。
ほどなくして、木葉の隣。
見上げなければ確認できない三白眼を覗きこんで、朱花が言った。
「アキノレナイに改名す「しない」
「木葉あきのれない君「しつこい」
「じゃあ木兎と何があったの?」
むぐ、と木葉が閉口する。