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(HQ) 亡青春に捧げるエチュード

第2章  痛がりな僕らと声なき恋(天童覚)



「朱花ちゃんも食べなよ」

「……っえ?」

「はい、あーん」


 有無を言わさず、というか有無を問おうとすらしない覚に促されて「あ」と口を開ける。ダイニングテーブルの向こう側、私を見つめる笑顔は楽しそうだ。


「おいし?」

「……うん、そうね、美味しい」

「もっかい食べる?」

「ううん。もうお腹いっぱい」


 今一度差しだされたスプーンをやんわり断って、私は淹れたての紅茶に口をつけた。熱い。ちりりと舌が焼ける。

 対して再びアイスを頬張りはじめる彼。ひとくち食べるごとに「んー!しあわせ!」と破顔するのが可愛い。

 私まで幸せなきもちになって、胸が温かくなる。隙間だらけだった心が、彼で満たされていく。


「次のときはさ、外に食べいこーよ」

「外に?」

「あと買物もしたいし、お散歩も」

 
 彼はあれ以来、私の部屋を訪れるようになっていた。

 二週に一度。ときには月に一度。ふらりとやってきては他愛もないおしゃべりをして、ふらりと帰っていく。ただそれだけ。


「お散歩かあ……そういえば最近運動不足だし、たまにはいいかもね」

「やった! 決まり!」


 友人じゃないし、恋人でもない。
 知人というのは寂しすぎるし、かといってそれ以上の関わりもない。時折互いの肌に触れることはあるけれど、そこから先へは進まない。

 一緒にごはんとアイスを食べて、お茶をしておしゃべりをして、ただ一緒にいる。ただそれだけなのだ。

 だけど、ただそれだけの関係が、私にはどうしようもなく必要で。

 どうしようもなく、心地よかった。



「ところで朱花ちゃんよ」



 にこにこ笑顔でアイスを突ついていた覚が、すんと真顔になる。じっと私を見つめる赤。


「なに? あ、おかわり?」

「んーん、ちがくて」

「違くて、じゃあなに?」

「今日会社でやなことあったでしょ」


 ギク、として肩が跳ねた。

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