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第7章 ふたつ 彌額爾(ミカエル)の語り ー人の望みの歓びよー



誰かを満たすのは簡単な事じゃない。

でもそれに増して自分を満たすのは難しいんじゃないかと思う。殊に満たしたい相手のいる人間は、その誰かを満たす事によって満たされるからね。

ややこしいな。でも羨ましい。

エンゲルはそういう人間だし、カールもそんなところがある。シュノークーゲルを作ってからこっち、二人と親しくなった偏屈なガラス職人のベアヒェンも実はそうだし、清水に棚引く水草のような美しい文字を綴るリーリエも、手紙を読む限りそんな人間のひとりだ。

エンゲル

暖かくなってきて、私は気持ちがいいわ。冬の好きな貴方には残念な春かも知れないけれど、私は夏が待ち遠しい。貴方の愛した百合は暑くて静かな山中を好むの。私の愛する天使が寒くて寂しい湖畔を好むようにね。
特に今年の夏は特別待ち遠しい。
貴方も私と同じくらい、夏を待ちかねてくれていたら嬉しいわ。勿論そうだろうとは思うけれど、私自身あんまり楽しみ過ぎて、貴方が同じ気持ちを持っているんだとすればちょっとびっくりしてしまうくらい。そんなに楽しみにしてるの、エンゲル!まあ、私もなのよ!ってね。

私、ワクワクしすぎかしら?落ち着かなくちゃ。

素敵なシュノークーゲルをありがとう!
いいお友達が出来たみたいね。私の可愛い鳩は綺麗な四つ葉を加えて小首を傾げているわ。手紙を書く私を不思議そうに見ているの。目が合う度に笑っちゃう。
ベアヒェンってきっといい人ね。この子を見たらすぐにわかっちゃった。
今も私をきょとんとして見てるこの子は、きっと知りたがり屋さんだわ。何で、どうしてって目をしてるもの。可愛い子。私はこのコをどこかで聞いた事のある名前、凄く身近な名前で呼んでるわ。

ミカエル。

どう?解るかしら。私が今お世話になってるところでは、大天使をそう呼ぶの。
貴方の名前ととても近しいでしょう?

貴方の可愛い鳩はどんな子かしら。何て名前?教えて頂戴。楽しみにしてる。


Alles und Freude Liebe.
Liebe Grüsse.Lilie und Michael.
(愛と喜びを込めて、リーリエとミカエルより)

手紙を読み終わったエンゲルは眉をひそめてこっちを見た。
凄く厳しい顔で考え込んでいる。
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