第7章 ふたつ 彌額爾(ミカエル)の語り ー人の望みの歓びよー
僕はシュノークーゲル(スノードーム)の中に閉じ籠っていた。白い鳩が飛び立とうとするような格好で羽根を伸ばして硝子玉の檻を夢見がちに見詰める傍らで、沢山の手紙を読んで来た。
僕と鳩の丸い世界は、一人の男の文鎮だ。男は黒い羽ペンで毎日毎日手紙を書く。
宛名はいつもひとつ。
リーリエ。
今日雪割草が花を開いた。
ぼちぼち春が来るようだよ。よく毎年間違いなく順を守って季節が巡るものだね。たまには冬の後に冬をやり直すのも悪くないんじゃないかな。私は相変わらず冬が好きだ。雪の白さは君を思わせる。
リーリエ(百合)が冬に咲く花ならば、どれだけ美しいだろうね。
こんな事を言ったらまた君に怒られるかな。君が君の産まれた季節をこよなく愛しているのは知っているけれど、ちょっと考えてみてごらん。雪の中のリーリエを。
ほら、満更じゃないだろ?
Alles Liebe.Viel Glück.(愛を込めて。またね)
エンゲル。
天使から百合へ、手紙は数え切れない程に放たれる。何しろエンゲル(天使)は一日に何度もリーリエへ手紙を書くから、一体この国の紙は何処から湧いて出るのかと不思議になる程だ。
紙は木から産まれると聞いた事がある。神の庭から降り落ちた雨垂れが語っていた。何処かに紙のなる木があるのだろう。面白い。いつかそんな木の茂る林か森に降り落ちてみたい。