第4章 弥太郎河童
なけなしの撫で肩をひょいと竦めて、路六はピタピタと塒を後にしかけた。
童子と弥太郎の、あとほんのちょっぴりしかない時間を邪魔するような不粋な真似をしては、大獺の名が廃ろう。
なあ、路六。
くぐもった弥太郎の声が路六を引き留めた。
振り返ると、枯れ草の山からはみ出た弥太郎のひょろりと大きな足の裏が見えた。
長い足の指が、考え深そうに、握れたり、開いたりしている。
……昨日からずうっと胸だか腹だか、チリチリうるさくて仕様がねえんだが、これは何だろうか……。
路六は、小さな牙で口辺を噛んだ。
梨と通草のワタ、塾れた山葡萄の実、山女魚の腹、陽に当たった雌獺の尾、たまさかの餅、乱暴で気短かな酒呑み仲間の、思いもしなかった心根。
…馬鹿、お前、そら、お前の柔っこくて大事なとこが焦げてんだよ。…痛えか…?
痛かねえよ。目から変な汁が垂れて面倒なだけだ。
弥太郎が眠たげに穏やかに答える。路六は足元をじっと見下ろして、クスンと鼻を啜った。
……そうかよ。心配すんな。ソイツは時間薬で治るモンだ。飯食ってババして寝て起きて、酒を呑んでりゃ大事ねえ。心配すんな。俺が治るまで付き合ったらァ。
ふぅん。悪ィな。うん。頼むわ、なあ……
チリ、チ。