第4章 弥太郎河童
「…でもよ、おとうにはおかあがいるだろ?おかあにもおとうがいるやな。好きで一緒にいんだからよ、二人で間に合わねえのか?」
「だめ。まにあわないの。わちがいなくちゃ、さみしくてならないの」
きちんと膝を折って座り込み、ひとつも揺るがない真っ直ぐな目で話すおとに、弥太郎は息が苦しくなった。
何だよ。帰さねえぞ。絶対駄目だ。
「…寝ろよ。お前の親だって寝てらァな」
「ねられないの。わちがいなくちゃ」
「俺が眠いんだ。お前を川から上げるのに疲れちまった。寝かせろ」
プイとそっぽを向いた弥太郎に、おとは悲しそうな顔をした。
見えてなくても、わかった。
背中に寂しいおとの気配がぶつかって、このまま黙って相手にしないでいれば、寂しいががっつりはね返っておとをもっと悲しくさせてしまうだろう。
「…おにあん。ごめんしゃい。わちも、ねあす」
息を詰めていた弥太郎は、おとの意外な言葉を聞いて背中をぎゅっと縮めた。
「きょうはおかあとおとうにしんぼうしてもらいあす。あさになったら、わち、ひとりでかえりあす。おやすみあさい」
「……」
背中に紅葉の手が触れた。
寂しいのだろうか。寒いのだろうか。
弥太郎は黙って体の向きを変えると、おとを抱き抱えて小さな背中をポンポンと叩いてやった。
「まださみぃのか?」
肩が震えているのに気付いて、弥太郎はおとの顔を覗き込んだ。
「さみくありあしぇん。さみしぃの」
おとの目から、水が垂れた。
弥太郎はびっくりした。
何だ、目から変な汁が出てるぞ。
何だかわからない。わからないけれど…。
…わかる気がした。
本当にさみしぃのだ、この童子は。
俺じゃ間に合わねえんだ。
折角拾い上げたのに……
どうする?もう食っちまうか。食っちまや、帰さねえですむじゃねえか。なあ?
チリチリチリチリ。