第3章 仰げば尊し
何で壊れちゃったんだよ。ひどいじゃんか。
あっちの文香がこっちを見た。
泣いてない。
笑顔で歌いながらこっちに手を振ってる。
赤いタイのセーラー服が、こそばい。何か照れる。
オレのガボガボの学生服と大違いだ。
そう思って見たら、あっちのオレがこっちに気付いた。
ちょっとビックリしたみたいに目をでっかくしてから、ニカッと笑って手を振る。
「寂しいけど悲しくないよね」
こっちの文香がオレの顔を覗き込んで来た。こっちの文香は泣いてたらしい。笑ったタレ目がちょっと赤い。
「うん」
オレは肘でぐいっと涙を拭ってニカッと笑った。
オレだって男だかんな。いつまでもグズグズしないんだ。
「寂しいけどな!悲しくない!」
ブワッと凄い風が吹いて、桜の渦が学校を隠す。
「アタシ、学校きまったよ」
文香の声がした。
え⁉
ビックリした拍子に文香の手とオレの手がはぐれる。
目の前は桜ばっかりで何にも見えない。
まだ歌ってるみんなの声が微かに聴こえた。
今こそわかれめ
いざさらば。
その意味なら知ってるぞ。
バイバイ、さよならってことだ。
そういうことだ。