第3章 仰げば尊し
ほっぺたがすうすうして目が覚めた。
コタツで寝たと思ったのに、布団の中だ。じいちゃんが運んでくれたのかな。まさか寝ボケてガバチョったんじゃないよな?怖いぞ、ソレ。
頭がスッキリしてる。熱下がったか?
起き上がって窓を見たら、もう朝だ。
台所からコトコト母ちゃんが朝飯の支度をしてる音がする。
今日は帰りが早いから晩は刺し身にしてくれとか、全然意味わかんねえこと言ってる父ちゃんの声。
すき焼きの次の日に刺し身なんか出るか。
オレにだってわかるぞ、それくらい。今日の晩飯は多分煮魚か焼き魚だ。
ガスのボイラーがゴンゴンいってる。
姉ちゃんが朝風呂してんな。
何か最近朝風呂入りたがんだよなぁ。一日二回も風呂に入りたいなんて、信じらんないわ。オレなんか一回だってメンドくさくてヤなんだけど。
じいちゃんばあちゃんはまだ寝てるんだろう。夜更かししてたもんなぁ。不良老人だ。
うんと伸びをして目をこすったら、手が濡れた。
…あれ?泣いちゃってたんだ?バッカだなー、オレ。
へらっと笑ったら、ぽたんと布団に涙が落ちた。
うん。これはアクビの涙だ。
掌でごしごし布団をこすってひとりで頷いてたら、コツンと窓が鳴った。
何だ?和也か?武則か?まさか康史?
コツン。
違うな。アイツらだったらコツンじゃねえもん。ガンガンかゴンゴンだ。
コンコン。
いや、開けないし。寒いから。
ココココン。
しつけえな!わかったよ、何だよ誰だよ!オレはインフルなんだぞ?うつっても知んないからな!
ガラッと窓を開けたら、文香がいた。
え?
「おはよ」
「…おはよ…」
まだ夢みてんのかな。
いい加減起きろよ、オレ。
「熱下がったの?元気そうだねー」
いや、夢じゃないな。寒いもん。
朝の冷たい空気に体がぶるっと震えた。どっかンちでストーブ焚いてる灯油の匂いがする。
うちじゃないな。うちはまだコタツですます気まんまんだからな、母ちゃんが。
「何、お前もうガッコ行くの?」
赤いランドセルを背負った文香は、こくんと頷いた。
「朝練」
朝練?スゲーな合唱部。見習えよ、野球部。
「敏、あたし学校決まったよ」
「マジ⁉」