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第3章 仰げば尊し



康史がいる。
学生服、似合うなあ。ササキングに背中叩かれて困り顔だ。きっとまた姉ちゃんによろしくとか言われてんだぞ。ササキング、康史の一番上の姉ちゃんが好きだもんな。はは。

和也と武則が卒業証書の入った黒い筒で面とか小手とかデカい声で騒ぎながらフザケてる。
その横に、窮屈そうに学生服の首元をイジりながら笑うオレがいる。
制服、サイズ合ってないぞ。ガボガボじゃん。
まあさ、みんなそんな感じだからいいけどさ。

「やっぱりフザケてるね。敏たちって、いっつもフザケてるんだよね」

文香がおかしそうに言った。

「楽しかったね」

文香の手にきゅっと力が入る。

うん。楽しかったよな。

オレもきゅっと手に力を入れた。

合唱の連中が集まってるのが見えた。奥山先生が五年生の部員に引っ張って来られた。

康史と話してたササキングが急に拍手する。
校長先生や副校長先生、他の先生に、謝恩会の話してバカ笑いしてたうちの父ちゃん母ちゃんや、和也ンとこのおっちゃんオバちゃん、武則と康史の親とか、みんな拍手し出した。
あっちのオレまで、野球部の連中と拍手してる。

奥山先生が合唱の連中と何か話した後、恥ずかしそうに学校の方を向いてフワッと手を上げた。

あ、先生、指揮を始めるな。

見慣れた仕草だ。

先生の手がクルンと動いて、合唱部が歌い出した。

仰げば尊し。

あー、綺麗な声だなぁ。さっすが毎日走ってるだけあるよ。いいじゃん。

校長先生がデッカイ声で歌い出した。ササキングも、父ちゃんたちも、在校生も、わあ、オレたちまで。

みんな学校を向いて、奥山先生の指揮に合わせて、ちょっと体を揺らしながら歌ってる。

ああ、そう言えば奥山先生は、定年退職するんだった。うるさいピアノ、もう聴けないんだ。

ん?学校がなくなんだから、おんなじか。そうだよな。この学校、なくなんだよな。

桜がはらはらはらはら、綺麗だ。

みんな気持ち良さそうに歌ってる。子供も大人も、泣いてる。笑ってるけど泣いてる。

オレも。

オレも泣いてた。

オレ、この学校好きだった。
こんな風にちゃんと卒業したかった。大好きで楽しかったこの学校を。

夢だ。

わかってるよ。

最後だから大サービスしてんだろ?
ホントはオレが泣いちゃいそうに寂しがってんの知ってたんだろ?

だったら台風なんかに負けてんじゃねーよ。
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