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第3章 仰げば尊し



じいちゃんはずっと柔道黒帯だったヒトだから、今もガッチリしててメッチャ強い。
ばあちゃんは陸上と弓道やってた人だから、腰をいためてても動きが速い。

そのふたりに幽霊か何かとかん違いされたオレは、すごく怖かった。
幽霊見たと思ったじいちゃんばあちゃんより絶対怖い思いしたと思う。

何で夜の一時に韓流ドラマ観てるんだよ、このふたり。
わさび漬けとワンカップで韓流ドラマとか、何か楽しそうだな。大人の楽しみってやつか、コレ。

じいちゃんが出してくれたヤクルトを三本いっき呑みしたオレは、またガバチョするのも疲れるから何となくそのまま居間のコタツにもぐり込んだ。

「来月の三日だったか?学校なくなんの」

TV観たままじいちゃんが声かけて来た。

「なくなんじゃないよ。なくなんのはも少し先。三日は卒業式すんの。じいちゃんたちにも手紙来たんじゃないの?」

「うん?」

…ちゃんと読んでねえな、じいちゃん。

「寂しくなるねえ」

オレの首をタオルでグルグル巻きにしてたばあちゃんがちっちゃい声で言う。
さっきの叫び声とは大違いだ。
よく起きて来なかったよな、父ちゃんたち。地震とか火事とかなったらカンペキアウトだぞ、あの三人。

「うちの家族はみんなあの学校に世話ンなったからな」

ヤクルトとワンカップを順番にチビチビ呑みながらじいちゃんがしんみりしてる。
ヤクルトとワンカップって…うまいの、ソレ?さすが栗きんとんで飯食う人はちがうなぁ…

「まあボロだからね。壊してサッパリすんのも悪くないのかもね」

…さみしんじゃなかったのかよ、ばあちゃん。何急にサバサバしてんだ。

「学校なくなってもね。あんまり変わんないかんね」

「卒業生がゴロゴロいっからなぁ、この町は」

「集まりも多いしね」

「皆近所だからなぁ」

「代わり映えしないよねえ」

「あっちもそう思ってっぞ」

「だろうねえ」

じいちゃんとばあちゃんは、画面でケンカしてる韓流カップルをじいぃっと観ながらもそもそ楽しそうに話してる。

あー、そっか。じいちゃんもばあちゃんもとうちゃんもかあちゃんも、この町のコなんだよな。
出てったり出てかなかったり、戻ったりずっといたり、でも結局この町のヒトたちなんだ。

ふーん。

何かオレ、一回町を出たらそのまんまよそのヒトになんなきゃないのかと思ってた。

へえ…
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