第3章 仰げば尊し
ぽっとひとりでに目が覚めた。
部屋の中が暗い。ストーブもいつの間にか消されていて、空気が冷たくなっている。
襖の隙間からほんの少し、灯りが入って来る。まだ誰か起きてTVかなんか観てるらしい。
今何時だろ…
寝間着とシーツが汗に濡れて気持ち悪い。喉も乾いた。
枕元を手探りして吸い飲みを探したが、ない。
そう言えば姉ちゃんが夕飯のお盆と一緒に片付けてたような気がする。
ダメじゃん!ガサツなくせに変な気回して、姉ちゃんの余計なことしいめ!
腹に力が入らないから、鼻でフンッと気合いを入れてソロソロ起き上がった。
頭が風船で吊られてるみたいにふわふわしたけど、何とか立ち上がって中腰になる。そのままジリジリと襖に向かう。
何かオリンピックにこんなカッコする競技なかった?ガバチョだかカバチンだかいうの。
今誰か部屋に入って来たら絶対叫ぶぞ。出たあーッて言う。うちの家族ならきっと言う。で、多分殴りかかって来る。もじゃもじゃお経唱えながら。
…誰も入って来ませんように。
今来られたら殴られ放題だぞ、オレ。逃げられる気がしないし。
来るなよ、来るなよ。
オレは水が呑みたいだけなんだかんな。誰かビックリさせる気なんかないぞ。
オレだって暗いとこでガバチョなヤツなんか見たくない。ガバチョってる自分もすンげえヤだ。
そう思ってたのに、居間の襖がスラッと開いた。
ばあちゃんと目が合った。
腰曲がってるばあちゃんと、今のオレってば目がバッチリ合っちゃう感じ。
「ぃよおぉぉおぅ〜ッ、出たよおッ、じィイさあぁぁんン!!!」
…ホラな。