第3章 仰げば尊し
鰹餡のかかった白粥は仄甘く、冷たい大根下ろしと甘酸っぱい練り梅が熱で荒れた喉と口に気持ちいい。
キレイさっぱり平らげてパチンとご馳走様の手を打つと、また瞼が重くなって来た。
あ···薬···呑まなきゃ···
スコンとまた、夢に落ちた。
康史がいる。
あ、ちきしょ。
これダメなパターン。絶対悪い夢来た。
ほらな!
文香も出て来た。
二人して水飲み場ンとこで何か楽しそうに話してる。何話してんだろ。
あの二人が一緒にいるとすごく気になる。
康史なんかさ、四番でピッチャーだし、背高いし頭いいし、他にいくらでも仲良い女子がいんだろ?何で文香と仲良くすんだよ。
水の匂いと蝉の声。
プール清掃の日じゃないか、コレ?水音と笑い声がする。野球部が当番だった日だ。
校長室の窓の下に、でっかい芙蓉の花が咲いてる。赤いのと、白いのと。
校舎脇の畑の畦に立葵と向日葵。
校舎の木板が熱で反り返ってちょっと焦げたみたいな香ばしい匂いをさせてる。夏になると漂ういつもの匂い。
プールのある校舎裏から間抜け顔のオレが出て来た。出て来ちゃった。
あーあ。何だよ、その顔!何で引っ込むんだよ!邪魔しに行っちゃえって!海パンいっちょでウロウロすんなよ!
カッコ悪ィ、オレ!
オレから見てもカッコ悪ィぞ、オレ!
…文香、来月からどこの学校に行くのかな。
学区がギリギリだかスレスレだか、康史や武則と同じ学校か、オレや和也と同じ学校か、まだハッキリしてないんだよな、アイツだけ。
…一緒の学校だといいな。
あ、ちがうちがう!別にいんだ、どっちでも!何言ってんだ、オレってば!
でも、もしかして一緒の学校だったらさ。オレ、その方がいいなぁ。
何となくさ。
ほらまた、文香がこっち見た。
康史でも校舎の脇でイジケてるあっちのオレでもなくて、学校の向かいの信号じじィんちの、二階の物干し台にいるこっちのオレを見てる。
こっくり頷いて見せたら、首を傾げてちょっと笑った。
康史が不思議そうに振り返る。
アッハハッ、ザマみろ、エース!
おデコをパチンと叩かれた。
「おぉう⁉」
シバシバする目を開いたら、姉ちゃんの呆れ顔が見えた。
「何ニヤニヤしてんの、気持ち悪い。普通に寝なさいよ、普通に」
「…知らねえよ。何だよ、オレ病人だぞ?優しくしろよな」