第3章 仰げば尊し
「うるさいコだね、全くもう。そんだけ元気なら病人面すんじゃない!ほら、食べなさい!」
···母ちゃん声デカい···。
ガチャガチャ置かれたお盆の上には、ゆるい鰹餡のかかったお粥と、小皿に大根下ろし、練り梅。オマケに幼稚園のときから使いっ放しのアンパンマンの湯呑みが並んでる。
いくら他の買ってくれって頼んでも、オレの湯呑みは何でか絶対ずっとコレ。
最悪だ。
最近担任の佐々木先生が真面目な顔して言ってた墓場まで持って行く秘密ってのは、コレみたいなのを言うんじゃないの?
絶対そうだ。
先生が何を持って行く気なのかは全然話聞いてなかったから知らねえけど。
ドキンちゃんの湯呑みでも使ってんのか、ササキング。
「熱下げなきゃ話になんないからね、インフルは」
母ちゃんが顔をしかめながら、ストーブのヤカンを下ろして急須にお湯を注いだ。
急須の中でお茶っ葉がシュッと音を立てて青臭くて香ばしい匂いがフッと上がる。
「食べ終わったらそのまましといていいから!さっさ寝なさいよ。薬忘れたらいけないよ!はい、召し上がれ!」
湯気の立つアンパンマンをゴンと置いて、母ちゃんは部屋を出て行った。
父ちゃんも母ちゃんも、何であんなガサツでデカ声なんだよ。そっくりだ、あの二人。もしかして実は双子か⁉双子なのかよ⁉
あー、姉ちゃんも入れたら三つ子だな。姉ちゃんもうるせえもん。
···そういやオレもよく声デカくてガサツだって言われんなぁ···え?てことはまさかの四つ子⁉はぁ⁉何ソレ、ヤだよ、そんなんぜってぇヤだ!今のなし!なしな!!
······熱のせいかな。バカみたいなことばっかし考えてんなー···。
熱のせいだぞ!オレがバカなんじゃないぞ⁉
溜め息をついてプラスチックのレンゲを手に取る。あれ?うちにレンゲなんかあったっけ?
···て、オイ!今野食堂って和也ンちのレンゲじゃないか!出前とったらちゃんと返せよ!ダメじゃん、母ちゃん⁉
レンゲに刷られた字を眺めながらお粥を吹く。
そういえば和也、買っても買ってもレンゲがなくなるって言ってたなぁ。どうなってんだ、この町は。もう出前止めちゃえ、今野食堂。レンゲで店が潰れちゃうぞ。あー、おっちゃんの肉うどんと焼きそば食いたいぃー。お粥じゃ食った気しねんだよお。