第3章 仰げば尊し
「だははッ、うつんねぇよ!アルコール消毒してっかんな、俺は!」
治ったら覚えてろよ、コノヤロウ。
布団に寝てるのに布団に寝てる気がしない。感覚がブワブワして、ボゲー。ゆるーい餡かけ汁に乗っかったお麩になったみたいな気がする。
腹減ったなぁ···
父ちゃんがまだ何か言って笑ってる。ガッサガサの手がおデコに触った。機械油の匂いがする。
うちン帰ったら手くらい洗えって。取り合えずビールって、父ちゃん使い方間違えてっぞ。それは居酒屋で言えよ。うち来たらまず手を洗うの。母ちゃんに怒られんだからな。知らねえぞ。
瞼が重くなって来た。ヤバい。ここで寝たら飯が食えないじゃんか。
あ、マズい。マジ駄目だって。
あーぁ······
学校が見えた。
平屋のちっさい学校。全校生徒は100人くらい。
オレたちの学校だ。
ボロくてあちこちガタピシいう校舎は、走ると床が抜ける。オレも六年に上がる今までに、三回穴を空けて六回母ちゃんにはたかれた。一回につき二発な。ひでぇよなぁ。
この冬には取り壊されてなくなる予定。どうせ中学に上がるんだからあんまり関係ないと思ってたら、こないだ続けて来たデカい台風の二連発で校舎の屋根と壁が吹っ飛んだ。もう冬を越せない。
後もうちょっと頑張れば、ちょうど百年、百年だったんだぞ?チクタクじゃなくてガタピシだけどさ、おじいさんの古時計じゃん?同い年じゃん。凄えよな。
なのに半端なとこでぶっ壊れて、間抜けなヤツ。
台風で吹っ飛んだ筈の赤い屋根と、黒い木板の壁がちゃんとしてるって事は、これ、夢だなぁ。
校舎前のちっさいグラウンドでオレたちが野球をしてる。
ほら夢だ。オレがオレを見てんだぞ?夢じゃん、全然。
何だよ、もっといい夢見ろよ、オレ。
甲子園球場のバックネットで阪神対巨人の日本シリーズとかさ、プレーオフだっていいや。
いや、どうせ夢なら大リーグでイチローのホームランボールキャッチしちゃうとか!うわ、ドリーム!めさドリーム!
あ、バカ、武則、またトンネルしやがった!もぉ、何なんだよ、そんなに長くねえだろ、お前の足ィ!
和也ァ、それをまたトンネルってどうなってんだよ!地下鉄か、うちのチームは!トンネルばっか!
は?ランニングホームラン?はしゃいでんじゃねえぞ、おい!真面目にやれよ、野球を!誰だ、あのバカ⁉
···オレじゃん!