第11章 斎児ーいわいこー
怖い怖いと思っていた人外なのに、あっちがこっちを怖がるなんて!
「…暁厂も物好きなヤツよな…」
「物好きはお嫌い?」
ぼそっと漏らした独り言にすかさず返したら、嫌な顔をされた。
「物好きが好きってどんな物好きだ、そりゃ」
あら、面白い。物好きが好きって、それこそ物好きって話になるのかしら。でも多分、そういう人って私は好きだわ。きっと好きな気がする。
私もそうだし、私が好きな男(ひと)もそう。
私の母もそうだし、ふたりの父もそうでしょうね。
一体世の中に物好きじゃない人なぞどれだけいるものかしら。
好き好きは人それぞれで、だからこそ世の中が回るのではない?もしかしたら、みぃんな物好きってことも有り得なくはない?そしたら物好きが物好きを好きって、当たり前のことだわ。皆お互い物好きなんだもの!
ああ、何て楽しいんだろう!
他愛ない考え事すら楽しい!
ひとり、屋敷の室にうっそり閉じ籠もっていたときの物思いとは全然違う。何かが、誰かがある物思いの楽しさよ!胸が張り裂けて中身が飛び出そう。出られちゃ困るけど!
顔を笑み崩して浮かれていたら、強い眼差しに引っ張られて瞬きが湧いた。
ぐいぐい無遠慮な真っ直ぐな目は黒目ばっかりの異相の者から向けられたもので、言ったら弥太郎と名乗る河童が私を見詰めているという話なのだけれど、思い入れの深い眼差しの意味がわからなくて私の浮かれた心持ちがふぅっと地に足をつけた。
「怒りましたか?だったら申し訳ありません。でも私、ふざけてるわけではないんです」
我ながら言い訳がましいと思いつつ、けれど本当のことだから言わないでいられない。ふざけてなんかいない。ただ嬉しくて楽しいだけ。
「怒っちゃいねぇよ。俺はいつでもこんなモンだ」
弥太郎は驚いたように目を見開いて眉間に皺を寄せた。
「…俺が怖えかよ?」
ちょっと体を引いて、何だか怖気づいたような弥太郎がもぐもぐと歯切れ悪く言う。
怖い?いいえ。ちっとも。
「怖くないわ」
真実そうなのだという気持ちを込めてじっと目を見返したら、弥太郎は暫く黙って見返してきた後、じっと瞠目した。
「…そうかよ。そらなによりだ」
唸るように言って、弥太郎は何処か痛んだように顔を歪め、背中を向けて歩き出す。
まさかとは思うけれど、泣き出すのかと、ほんのちょっと思わせる妙な顔だ。