第11章 斎児ーいわいこー
「私と節さんは逢引するようになった」
腹を決めて話し出す。
「おお、急かしといて何だが、ははは、素直な坊主だなぁ」
「話を略する故、あからさまな物言いをするやも知れないがご容赦願いたい」
「聞き辛くねえとこで頼むぜ」
「ご容赦願いたい」
「会ったばかしの坊主の濡れ場に興味ねえよ、俺は」
「…いや、そういう話はないのだけれど…」
「それはそれで詰まんねえ気がするから妙だよな」
「私の夢想空想でよければ夜通し話通す」
「生臭坊主の夢想空想なぁ…。もの凄まじそうでちょいと気が唆られねぇでもねえが、そいつはまあ、次のお楽しみにしとくぜ。あはは」
「次があるのか?」
真顔で聞いたら、路六はひょいと肩を竦めた。
「さあな。先のことなんざわかんねぇよ。無理や道理やムレにもちゃんとはわからねえのだもの。俺に聞いても知れるもんじゃねえ」
「無理たちにもわからないのか…」
「はっきりわかるもんじゃねえってこと。先々ってのは生き物だからよ、さしもの神様連中にも度し難ぇらしいぜ」
「そうか…」
そういうものなのか。
「先は知らねえが起こっちまったことならはっきりしてる。話を続けなよ」
促されて、考え込みかけた頭がパチンと自分語りに戻る。
先のことはわからない。でも先を紡ぐのは今に至る“起こっちまったこと“だ。
気が重くなる。
「…節さんは徳次郎さんに隠れて寺を訪うようになった」
「へえ。そら向こうっ気の強ぇ娘さんだ。悪くねえ、悪くねえ」
「残念ながら目当ては私ではない。住職に話を聞いて貰う為に、あの人は家の者の目を盗んで深更にひとり、寺へ通って来るようになった」
見たくないものを沢山見ただろう。そういう時間に、そういうところへ、あの人は足を運び始めた。
「私がそれに気付いたのは、五度目の訪いがあった頃」
「五度目ねえ。察しが悪ぃんだなぁ、おめえは」
「そう。悪いんだ」
もっと早く気付いていればそれだけ節さんといる時間が多く持てたのに。
私は節さんが寺に通っているのに気付いた初秋から、節さんの深更の道行きを送り迎えするようになった。
気付いてからといっても、情けないことに我から気付いた訳ではない。住職に謎掛けされて、やっと気付いたのだけれど。
”お前たちのように見える者には、暗い道はさぞ歩き辛いことだろうな”