第11章 斎児ーいわいこー
博打打ち?小唄の師匠かと思いきや、博労の姐御か。参った。博打打ちは酒飲み同様分かりにくくて付き合い辛い。
荒れ凪は路六をちらと見遣り、手をひらっと振った。
「口数が多いのが路六の良いトコで悪いトコさネ。切った張ったでやり合わないうちに余計なことを吹き込まれちまっちゃァ元のアタシが伝わらないじゃないサ」
「どう知ったって大した変わりはねぇ。おめぇという荒れ凪はいつだってそのまんまじゃねぇかよ。無理が凄んでもムスッとしやがんのは眷属の内でもおめぇと弥太郎だけだからな」
路六に言われて荒れ凪はちょっとばかり胡乱に目を眇めた。
「あらま。弥太郎と一緒くたたァご挨拶だねェ。これでもアタシは無理にゃ一目置いてるんだけど」
「そりゃ弥太郎だってその通りだぜ。大体そうでなくてどうする。おめえや弥太郎に限ったことじゃねえ。思うところがあってもなくても、俺らァ皆手前で心を決めて無理の眷属になったんだからよ」
「おンなじヤツの眷属に下るも心はそれぞれサ。アンタもアタシも弥太郎も、皆おンなじ心持ちで仕えちゃいないだろ?」
フンと盛大に鼻息を吹いて、荒れ凪は細い顎先をぐっと引いた。
「それでも行き着く先は大した変わりはねぇだろ?だから気心も知れるってもんだ」
諭すような路六の言いように荒れ凪は二度、鼻息を吹いた。あまり品が良いとは言えない仕草だが、見目麗しい女人がするといっそ可愛らしい。
「賂六は人が好過ぎるわ。そもそも互い互いをああだこうだ言うのは好かんたれだエ。地びたが割れるだの雷が逆さま鳴りするだの、気紛れで手前勝手な無理のいつ起こるかもわかりゃしない大難小難に上手く遣り取り出来るくらいに通じあっとりゃ互いがどうであれ構わん。てんで構わんのサ」
「それが気心の知れるってこったろうよ」
「知らんわ」
「いや、そういうことだろ?負けず嫌いが」
「は。勝ちか負けなら常に勝ちサ。負けず嫌いじゃァない。負け知らずヨ」
「それこそ知らんよ。この博打打ちめ」
呆れた路六にフンと盛大に三度鼻息を吐いて、荒れ凪が私の顔を覗き込む。
真黒い瞳の縁を灰色、薄緑の輪が取り囲んだいわく言い難い不思議な瞳は、強いて言えば猫の目色に似ている。焦点が強過ぎて瞳孔が開いているような眼差しが改めて人外と見合っているのだと思わせて、二の腕にふわっと粟が立った。