第11章 斎児ーいわいこー
「…つまりどういうこと?」
「どういうことって」
路六は呆れ顔をした。手に負えないという様子でつくづく私の顔を眺め、ぴんぴんあちこちに跳ねた髭をしおしおと下げる。人で言えば口角を下げるような仕種に思える。勿論口角の方もちゃんと下がっているから、二重に苦々しいという気持ちが伝わってくるのが何とも気が重い。
「そのまんまだぁ。おめえは独りじゃねえし、おめえがおめえを安く見積もるってのは、周りの人間も低く見積もられるってこと」
「周りが安く見積もられる、とは?」
「誰でも何でも繋がり合ってるもんだからよ」
チラと斜め上を見上げ、背なの土壁に流し目をくれ、路六は眉間に皺を寄せた。
「例えば俺らの薄情な頭領は」
端整な白い顔が頭に浮かぶ。それから一拍遅れて無理の話だと思い至った。無理は薄情な頭領か。
「気分次第で俺らを雑に扱って憚りゃしねえが」
面白がるのと閉口するのと、七と三の割合、そういう顔で路六は目を細めた。
「他所のモンが俺らを雑に扱おうもんなら山の半分も吹き飛ぶような鉄砲水の勢いで荒れ狂う。大袈裟じゃねえよ?怒髪天を突くって言うがよ、無理が怒ると地べたから沸いた稲妻が天を突きやがる。里の田圃のど真ん中が地割れして稲妻が沸いて、そりゃど偉い様だった。道理がまだ田の神だった頃のこったから、随分、随分前の話だ。あんときゃ兄弟で滅法揉めたぜ。道理が珍しく腹を立てちまって、無理は例によって臍を曲げて、無理が通れば道理が引っ込むいつもの理屈が利かなくて、結局何だかんだと道理の眷属と俺らとが二つ神の間に入った挙げ句、ムレやムレの眷属まで出張って四苦八苦したもんだ」
「…それは大事…」
成る程無理に路六や弥太郎ら眷属があるなら、道理やムレにも眷属があって然り。それが総出したというのならさぞやの大事であったろう。迷惑な兄弟喧嘩だ…。
「迷惑な話だろ?」
私の顔色を読んで路六はにやにやと笑った。
「で、その迷惑な騒ぎの大元が何だったかてえと、弥太郎んとこに遊山に来てた西の河童がこの俺の尾の毛艶が悪ィ、みすぼらしいって仕様もねぇアヤァつけただけのことよ」
「道理が元ではないのか」