第11章 斎児ーいわいこー
真ん前に秋光の虚ろな顔があった。
「ぅひ…っ」
息を呑んだ私の手に、毛だらけの前肢が触れる。
「おいおい。しっかりしろ」
秋光を避けるように身を乗り出した路六がぽんぽんと私の膝を叩いた。
「問わず語りで悲鳴をあげられちゃ聞いてるこっちが往生するぜ」
路六は苦笑いして柏手を打った。柏手は魔除けだ。小さな手が鳴ったとは思えない裂帛に、秋光が悲しげに揺らいで身を退く。
「…盆の仕舞いに、私はまた節さんに会った」
路六には見えているのだなと思いながら話を続ける。同じものを見ている者がいると思うと、ほっとした。
路六の陰、兄弟子だった僧都がまた揺らぐ。
「あの人は墓地でひとり、手を合わせて誰かを拝んでいた」
また明時の、薄明かるく薄暗い刻限の邂逅だった。節さんは前屈みになって、熱心に誰かの為に拝み込んでいた。
その誰かが、秋光だった。