第11章 斎児ーいわいこー
それは、恐らくない。
会ったばかりで大してムレを知らない私にすらわかることだ。路六に無茶な話だと分からない筈がない。
「…もしかしたら…なんてのは、あのムレにかかっちゃ、ねぇ、かな…?うーん…」
歯切れ悪く呟いた路六が、喉を鳴らして唸る。ほら見ろ、やっぱり分かっているじゃないか。
「俺が連れてっちゃ角が立ちすぎんだよなぁ…。何とかなんねぇもんかなぁ」
首を捻る路六の肩越しに不意に景色が拓けた。野っ原が広々と繁みを風に揺らしている。青々と繁る葉先の尖ったこの草は初夏(はつなつ)の薄だ。
薄の野っ原の真ん中に、小さな祠が見えた。小体で古びてはいるが見るからに清げで、何というか、きっちりと美しい祠だ。
それにしても。
ここは見覚えがある。
つい昨日見た場所だ。そのときは薄の穂が白々と光っていた。
口を開けてぽかんとする私の肩を、路六がぽんと叩いた。
「お疲れさん。着いたぜ」