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第11章 斎児ーいわいこー



呆れた声はまた笑いを含んで和らいでいる。

「一日弥太郎と歩き回っていたな。屁垂れな生臭坊主には堪えただろう。晩は滋養のあるものを届けよう。サクの炭が焼き上がるまで、せいぜい大人しくしておれよ」

その三日か。

私は黙って頷いた。明日は小屋にいて、じっとしていよう。用もないのに河童と山をほっつき歩くのも、在りもしない薄野原で山の神に出会すのも御免だ。

「この晩は月が明るい」

不意にムレの声が低く言った。

「サクが出歩くことの無いよう、気を配れよ」

夜歩きさせるなということか。こんな月夜は山に慣れた者ならそぞろ歩きも楽しかろう。それこそ里に下りるわけでなし、それくらい好きにさせてやればよいようなものなのに。ムレに護られているらしいサクなら、滅多な目には遭わないだろう。

「お前があれこれ思い患うことではない。月の上りきる前に疾く帰れ」

心の内を読んだように素っ気なく言われ、首を竦める。

「よく眠れよ。深く眠らぬものは碌でも無いものを見る羽目になるぞ」

気を配れと言ったのによく眠れとは身勝手な言い様だ。全く矛盾する。
思わず顔を顰めたらば、ムレが意味ありげにふふっと笑って、収まっていた葉擦れがまた始まった。ムレの気配が消える。

顔を上げると、白銀色の野っ原も、芳しい薫りも消えていた。辺りはただ、真暗くなった山が月に照らされ、歪な炭のように真黒く影を落とすのみ。
ざわざわと鳴る木立の隙を縫って差す月明かりだけが、先刻の不思議と変わりなく白々としていた。


















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