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第11章 斎児ーいわいこー



「こんだ呼び付けか。中庸ってもんがねぇのか、おめぇは。坊主のくせによ」

中庸とは仏道の言葉だ。
弥太郎がそんなことをいうとは意外だった。粗野なようで知識が広いらしい。長く世に在るものだけに、様々なことを知っているのだろう。サクは人と交わらず、こういう連中に囲まれて育ったのだ。それだけで里に馴染むのは難儀な気がする。里とここでは、サクを取り巻くものが違い過ぎる。

「…河童は」

「もういい。弥太郎でいい。また腸が出そうになった。おめぇ、早く山を下りろ。俺の寿命が縮まる」

うんざりした顔で投げ槍に言う弥太郎は、人に化けて里に溶け込んでいる道理や路六ほどではないが、思ったより世長けて人里に明るく見える。その弥太郎の目にサクの先行きは、里と山、どっちにあった方が良いと映っているのだろう。

「弥太郎もサクが山を下りた方がいいと思うか?」

問い掛けると、弥太郎は目を細めて鼻を鳴らした。

「知るか。そいつァサクが手前で決めることだ。俺たちが口を出したところで、どのみち好きなようにするさ、彼奴は。山を下りるとなりゃあ、ムレは簡単に行かせやしねぇだろうがよ」

ムレの機嫌の悪い物騒な声が思い出された。道理がそういう心積もりで私をサクに会わせたのならば、ムレが私を忌み嫌うのもわかる。ムレはサクを山から離したくない様子だった。
しかしサクは山を下りたがっていた。いや、と、いうより、街場へ出て、その賑やかな様を見てみたいと思っているようだった。いつまでも山にいるつもりはないとも言っていたが、話ぶりからは里で暮らすほどの気構えは感じられなかった。小金を貯めて、見たことのないものを見、新しいものを身近に感じてみたいのだろう。サクにとって山を下りて街場を覗くのは、物見遊山のようなものなのではないか。
けれど、周りはそう捉えていないようだ。サクの先行きを思って意見が割れているといったところか。

「まぁよ。俺ァサクが好きなようにすんのが一番だと思ってるよ」

下生えを踏んでまた歩き出した弥太郎が、ポツンと言った。

「それで苦労があってもそれを引き受けんのは手前の仕事だ。こりゃ何だって変わんねぇ」

「呑み過ぎの二日酔いと同じだな…」

頷いて言ったら、弥太郎が振り向いて睨み付けて来た。

「おめぇはどうもひと言多い質みてぇだな」

「そう思う」

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