第11章 斎児ーいわいこー
「うえ。早く去ねよ。サクに手を出したらムレに締められるぞ。俺たちだって黙っちゃいねぇ」
「サクに限らず誰にも悪いようにする気はないし、長居する気も毛頭ない」
「お?ああ、禿だけにな!」
「…………」
「何だ、その面。何か文句あんのか」
「あった方がいい?」
「よかねぇわ!何が聞きてぇんだ!?早く聞け!聞いたら戻るぞ!俺は坊主のお守りなんざ矢っ張り御免だぜ!」
「里の神は何で私に声をかけて下さったのだろう?」
「それか?聞きてぇことってのは?」
「そう」
「おめぇは馬ぁ鹿か!そりゃ俺がさっきおめぇに聞いたこったろ!?」
「私も不思議に思うから聞かずにいられないんだよ。何でだと思う?」
「あのなぁ」
「うん」
「知りてぇと思ったことが皆知れたら世話ねんだよ。特に無理やら道理やらの考えてることなんざ知れたもんじゃねぇ。知ったところで何が何だかさっぱりわかんねぇってことだって、当たり前にある。何せ相手は神だからよ。訳知り顔で簡単にものを聞くな阿呆。聞くだけタダなんてうまい話はねぇんだからな。相手の機嫌によっちゃ食われるぞ」
「食う?私を?誰が?」
「無理とか?」
「川の神の?」
「川の神の」
「それが私を食う?」
「食うんじゃねぇな。"呑む"だ」
「呑む?」
「まるっとな」
「…痛くはなさそうだけれど…」
「息が詰まってくたばるかじわじわ溶けてくたばるか、俺はやってみたことがねぇから知らねぇが、痛くねぇってこたねんじゃねぇか?」
「それは…厭だな」
「だろうな。…おい、ガンギョウよ。おめぇな。分かりが悪ィ!悪過ぎだ!坊主ってのはおめぇみてえな奴ばっかりか!?俺ァおめぇら坊主はもうちっと賢いもんだと思ってたわ!」
「他の僧都と私をひと絡げにしてはいけない。とは言え、今の問答は分かりが悪いが故ではなく、慎重故と思って貰いたい」
「どっちだって同じだわ。何が慎重だ、糞食らえ」
「サクの口が悪いのはあなたの口真似をしてのことかな?」
「いい加減にしねぇと尻子玉抜いて沢に捨てるぞ!おめぇと話してると口から腸がまけ出るわ!」
「そういう珍味があるな…。海鼠は知っているか?」
「何だそりゃ」
「海に住まうものだよ。驚かすと腸を吐くが、その腸が美味いと聞く。もし次があったら土産に持って来ようか。酒が好きなら気に入る筈」