第11章 斎児ーいわいこー
開いた大口から八重歯が覗く。けれどそれは不思議と見苦しくなくなっていた。
「待ってな。今飯を出してやる。食ったらちょっとそこらを歩いて来いよ。足腰慣らして山越えに備えとかなきゃな」
朗らかなサクの声につれられて笑ったものの、引っ掛かった。
目を抉ったり手足をもぎたがったりしている山の神のお膝元を彷徨いていいものなのか。
「心配すんなよ」
囲炉裏の灰を掻いて火を起こしながら、サクは飽くまで朗らかに請け合った。
「俺は稼がなきゃならねぇから付いてっちゃやれねぇが、ちゃーんとお守りを頼んでやるからよ」
…お守り?誰に私のお守りを頼むつもりだ?
獺か?河童か?それとも柳の木か?
口を噤んで難しい顔をした私に、サクはにっこり笑って見せた。
「大丈夫だって」