第11章 斎児ーいわいこー
話し声で目が覚めた。
耳障りの悪い奇妙な声はサク、幼いのに気味が悪い程落ち着いた声の主は誰だろう。童女のように思われるが、年寄りが話しているようにも思える。
「金子なんぞ要らん。此処に居る限り不自由することはない。わちがさせぬ」
「此処にずっと居る気はねぇんだよ。だから一緒に山を下りようって言ってんだ。なぁ、今は時代ってのが変わって、街場へ出りゃあ火じゃねぇ灯りがあるって聞くぜ?見たこともねぇもんがいっぱいあんだ。俺はそいつを見てみてえんだ。お前にも見せてやりてえ」
「埒もない」
「埒があるかねぇかなんてさ、見てみなきゃわかんねえだろ?面白いぜ、きっと」
「馬鹿を言う。爪弾き者にされてまた追いやられるのが関の山よ。わちはサクにそんな思いをさせたくない」
「また山に追いやられるんでも行ってみてえんだ」
「サクよ。お前のその声では里に馴染むことは叶わん」
「喋らなきゃいいだろ」
「お前は己が解っておらん」
「何だよ。俺がお喋りだってのかい」
「気味の悪い声で話しては騒ぎを起こす。聾の真似をすればそれも禍を呼ぶ」
「何しても駄目ってのか。何だよ、業腹だな。でもよ、そのうち呪いが解けたらさ…」
「呪いの解けたサクの声はさぞ甘かろう」
「煽てんなよ、こそばいい」
「そしてそれがまた禍を呼び起こす。サクは人に交わるべきではない。その美しい顔のせいでサクも周りも不幸になる」
「またそれか。そこの坊さんも言ってたぜ。俺が綺麗だってさ」
「生臭坊主がろくでもない。剣呑だ。殺してしまおう」
「言うと思った。止めてくれよ。こいつは俺の客なんだからよ。ちゃんと生かして山を出してやらなけりゃ」
「生きてさえいれば手足をもいでもよしか?」
「達磨を麓まで担いでけってのか?真っ平だぜ」
「目を抉るのならばよしか?」
「盲の手を引いて山を下りんのかい?止してくれ」
「耳を削ぐくらいは構わんだろう?」
「止せ止せ。どの道俺が難儀する。ほんのちょっとの間だよ。気に入らないでも辛抱してくれ」
「坊主の払う金でサクが街場へ行こうというなら、辛抱出来る筈もない」
「こいつの寄越す端金じゃ街場にゃ行けねぇよ。でもさ、金は貯めれば増えるんだ。炭を焼いて山を案内して、兎や狐の毛皮を売ったりさ、俺、ちゃんと金を蓄えてんだよ」
「…………」