第10章 丘を越えて行こうよ
可笑しそうに一也が言ったから、思わず吹き出しかけて咳き込んでしまう。
「バーカ。人を笑ってる場合か。お前も明日から熱中症の牛として町内の人気者になるんだぞ。出戻りにデカいオプションがついたな。おめでとう」
か、加美山、こいつ。憎ったらしいことを…。
「まあいい。俺は出戻りなんか気にしない。今野は兎も角、加奈子さんなら出戻りでも全然OKだ」
それ、気にしないって言わないって。相手によるって話でしょうが。しょーがないヤツだなぁ。
「諦めが悪いぞ、加美山」
一也が呆れ半分で可笑しそうに言う。
「気が長いって言ってくれ。言い方ひとつで情けなさが美点に変わる」
何言ってんだか、この男は。
「ホントしょーもないねぇ、ヒロシは」
美佳子ちゃんの声がした。やっぱり心配して来てくれたのだろう。思い切り気持ちを代弁してくれたので、ちょっと胸がスッキリする。
ありがとう、美佳子ちゃん。踊り中にブレーカー落とすのは止めにしとくね。
「ついでにこっちもまとまっちゃえばいいのに」
「あー、こっち?どーでもいいわ、こっちは」
「また僻んで」
「僻んでねぇよ。こっちがあっちの真似しても、公開処刑どころか余興だぞ。失笑を誘いかねないしガックリ場が盛り下がる」
「うるさいな!いいから担架持って来て。詩音ちゃん、病院行くよ」
ああ、そっか。アタシ、病院行くんだ。ホント馬鹿みたい。
いや、違う。頑張った、アタシ。
「無理させてごめん。本当ありがとう、詩音ちゃん」
加美山と美佳子ちゃんは担架を取りに行ったらしい。一也が額から手を退けて小さな声で言った。
「お詫びに何でもするから。先ず病院行こう」
行きたくないってごねるとでも思ってるのかな。アタシだってそこまで子供じゃない。でも。
「何でも?」
「何でも」
「…そう。じゃあ……先ず子供会の翠ちゃんにご褒美あげて」
「わかった」
「小坂に何処ででも脱ぐなって言っとくこと」
「うん」
「黄鶴楼で奢って」
「うん」
「…後で自分でも言うけど、敏樹と加奈子さんにおめでとうって、伝えて」
「うん」
「敏樹と後腐れないように…ちゃんと話して」
「うん」
「……あと………」
「あと?」
「涼しくなったら、行きたいとこがあるから…連れてって」