第10章 丘を越えて行こうよ
気のきく加奈子は、着ぐるみのまま呑めるよう、水にストローを添えてくれている。それがかき氷用のものなのは、まあ祭りなんだから仕方ないというか、当たり前か。
気付いたら、子供会有志ひよこ会のお遊戯が終わっていた。詩音はハッとして椅子の背に手をかけ、半立ちの格好で演目を進めた。
「はーい、元気のいい可愛らしいお遊戯でしたねー。風の子保育園、キリスト幼稚園の先生たち、ご協力ありがとうございました。おチビさんたち、来年は小学生のお兄さんお姉さんとUSJ踊って見せて下さいねー」
アタシ、ホント保母さんでもやってけると思うの。 見てよ、この根性。資格あるからスカウト待ってます。
ゆりべこちゃんの下でにっこり幼稚園の先生たちに笑いかけて、詩音はゴクンと酸いい生唾を呑んだ。渇いた喉で無理やりそれを嚥下する痛みが、空嘔を伴った咳き込みを誘う。
「……ぅえ……と。次……次は…。?……青年会有志と?ご当地ヒーローネイガーによる?勝ち抜き腕相撲大会!?何だそりゃ、聞いてないよ!?」
舞台裾からカンペよろしく殴り書きの予定変更を見せられた詩音は頓狂な声を出して、椅子にへたり込んだ。
「だ…大丈夫?詩音ちゃん?」
加奈子がステージの縁に手をかけてまさかの登壇姿勢を見せるので、詩音は慌てて背筋を伸ばした。ゆりべこちゃんの重さに頭を持っていかれそうになるのを必死に堪える。
「いやもう、全然大丈夫ですから、加奈子さんは水を置いて早く行って下さい。今からここに酔っ払ったバカ者どもが書割を組みに来ます。危ないです。何せ春に神輿をぶっ壊した連中らしいですから…て、一也は何やってんだ?酔っ払ったオランウータンの監視役はどこだ!?」
「一也くんとかオランウータンとか、そんなどうでもいいのよ。それより詩音ちゃん」
ヤダ加奈子さん、意外と言うな…。
「脱水症状起こしてるでしょ?もっと早く持って来れば良かった。加美山くんに頼んだんだけど、加美山くんも忙しいみたいで」
申し訳なさそうに言う加奈子に詩音はくらくらしながら呆れた。
「加奈子さん、落ち着いてよく見て下さい。アイツ全然忙しくないから。何ならうちで寝てる自称ヘッポココラムニストより暇ですからね。寝る用足してるだけうちの父のが忙しいくらいのもん…」
思いのまま勢いよく言ったらば、またチカチカと星が散った。
「あ、あ、あ…」