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楽天地

第10章 丘を越えて行こうよ



山間の田舎じゃあるまいし、今時町ぐるみで夜半まで騒ぐ地域があるかい。あー、ここらの年寄りが日頃早寝してんのは、今日や大晦日の為の寝溜めか。そうかそうか、て、そんなの知ったことか!風呂入って寝ろ!でなきゃBSで海外ドラマでも観てろ!どっちでもいいから帰れ!

いやむしろ断トツ私が帰りたい…!

そんなこんなで、先の長い夜にはしゃいで乗りに乗っている皆をユーモアを持って軽妙に、場を盛り下げないよう気を付けつつ、目放しせずにいなすのが司会の仕事。
だからステージから下りられないのだ。

「…これ、どっちみち加奈子さんには無理だったんじゃ…」

呟いてフと見れば、席に加奈子がいない。

「……あれ?」

もしかして帰った?

具合悪くなったのかな。ひとりで帰ったのか?大丈夫か。一也か敏樹が送って…は、行けないか。ネイガーの出番がまだだし書割設置しなきゃって言ってたしな…。美佳ちゃん…も若草会の踊りがあるか…。あ、加美山!アイツか。アイツだ。そうだな。アイツも少しは働かないと…。

うんうんと頭をゆらゆらさせながらひとり頷いて視線を演し物に戻しかけた詩音は、今思い巡らせたフルメンバーが一塊になって何やら言い合っているのを目に止めて、吹いた。

ひ、人がひぃひぃ言いながら司会代行してるってのに、加奈子さんそっちのけで何をしてるんだ、アイツらは…!あッ。クソ、ビール呑んでる!ビール!ああ、喉渇いた!

そう思ったら、急にしんどくなった。動悸がして、目が回る。慌てて首を振って気を取り直そうとしたら、ますます目が回った。星がチカチカする。ゆりべこちゃんの頭がますます重くなる。首がもげそうな気がする。もげはしないだろうけれども。

「詩音ちゃん?」

くらくらしていると控えめな声がした。

「大丈夫?」

そろそろと声の方に顔を向けると、果たして心配そうな加奈子がいた。ステージ下にひっそり立って、首を伸ばして詩音を見ている。

「加奈子さん?こんなとこ来ちゃ駄目じゃないですか。暑いんだから、ここ。お体に障りますよ」

ああ、こんなこと言う半分鮫みたいなアニメキャラがいたなぁ。

下らないことを考えつつひそひそと言ったらば、加奈子がペットボトルの水を振って見せた。

「お水渡したらすぐ行くから。その格好で水分も摂らないでいちゃ駄目よ」

「あ、すいません。それは正直助かります…」

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