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第10章 丘を越えて行こうよ



そうだ。
そう言えばこういう盆踊りだった。

詩音は吹き出る汗に目を瞬かせながら、何度目か知れない溜め息を吐いた。ステージの照明が熱くて熱くて、どんどんどんどん汗が出て来る。
演し物は見るも演るも大盛り上がりで見るだに暑苦しく…。

祭り騒ぎが手に負えない…。

ステージの裾に何故司会が常在するか、説明されただけでは納得しきれなかったことが、こうしていると改めてよくわかる。
皆テンションが上がりすぎて羽目を外すのだ。
酔っ払いから子供から老人から男女の別なく浮かれてしまって、言ったらちょっとおかしくなる。

「はい、雅晴くんと涼太くーん、元気に輪からはみ出てしまいましたねぇ。喧嘩は駄目よー。あんまりはみ出るとステージから落ちちゃうからねー。翠ちゃーん、ふたりの間に入って踊ってくれるかなー?後で青年部の一也おにいちゃんからご褒美貰ってねー」

「おいコラ、小坂!あ、いや失礼。小坂くん?ステージで脱いじゃいけませんよー。自衛隊で鍛えた体は後の呑み会で披露して下さいな。はい、そこで笑った若草会の淑女の皆さーん、お楽しみは後程ですよー。もうちょっと我慢してねー」

「柴田さん、素晴らしい。素晴らしい歌声です。まだまだ歌は続いていますが、残念、曲が終わってしまいました。柴田のおばちゃーん、旦那さんが退場しますよー。何なら連れて帰っちゃって下さーい。よろしくお願いしまーす」

「あらら、赤い腰巻きが後朝の衣よろしくステージに取り残されてしまいました。シンデレラのガラスの靴ならぬセクシーな熟女の落とし物を回収するのは、やっぱり釣り合いよろしく壮年の王子さまのお仕事ですよねー。町内会チョー!奥さんの忘れ物ー!」

渇いてガサついてきた声を咳払いで誤魔化して、詩音はゆりべこちゃんの被り物の下で物凄く顔を顰めた。

夏祭りはお盆の夜の始まりでしかない。

町の人たちはこの後、祭りの打ち上げで呑み始める。お開きになったら今度は各家で夜中まで呑んで騒いで、町中の菩提寺に墓参りする。ここいらの墓参は夜中と決まっていて、寺は例年ビッカビカにライトアップして町民の訪れとお賽銭を待っている。これがまた檀家であるところの町民のテンションを妙にぶち上げて、とち狂った男連中がさあ呑み直しとなったりする。

帰省することも少なく、更に両親が元からマイペースな早寝故に馴染みが薄くて忘れかけていた。

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