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第10章 丘を越えて行こうよ



「お前は早くステージ行けって。司会がいなきゃ始まらないだろ」

至極もっともなことを言われて詩音はむくれた。

「もーホント全部ムカつく!」

「わはは、ゆりべこが怒ってっぜ。ウケんな、加美山」

陽気に笑った敏樹に加美山が薄笑いを浮かべる。

「お前のネイガーも俺にゃ大概ウケるけどな。ま、ふたりとも頑張れよ。俺は加奈子さんとかき氷でも食いながら高みの見物させて貰うわ」

「食い過ぎてスゲー下痢腹になって皆の前で思いっきり漏らしてまた噂になりゃいいよ、加美山は」

詩音がぼそっと漏らすと、加美山は顔を顰めて手を振った。

「女が下痢腹とか漏らすとか言うな。下品なヤツめ」

「バッカくさ。下品に女も男もないでしょが。今時何言ってんだか」

本当に男なんか嫌いだ。デリカシーってものが全然ない。
自分のことは棚に上げて、詩音は汗だくの体を引きずってステージに出た。

簡易ステージから見渡せる屋台の並びと櫓から会場の四隅に張り巡らされた電球の灯りが眩しい。ステージを照らす照明が思ったより熱い。
お祭りが終わるまで、このステージの隅に置かれた椅子に座って司会をしなければならないのだ。とんだ道化じゃないか。

あ…。お茶がないな。

さっき溢したお茶を思い出して、詩音は溜め息を吐いた。

まあ演し物が終わるまでくらいなら平気か。早く帰ってお風呂入ってビールが呑みたい。

加奈子の姿が見えた。紺の桔梗を染め抜いた白い浴衣が涼しげで、凄く綺麗だ。傍らで一也が椅子をすすめている。

何がもう行くよだ。仕事じゃないじゃん。

今の加奈子を気遣うのは当然のこととわかっていても面白くない。詰まらないものを見てしまった。汗が目に入って、ちょっとクラッとした。

会場の隅を見覚えのあるような子供がふたり、手を繋いで走って行った。

笑い声。

…また。

詩音は頭を振ってマイクを手にとった。











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