第10章 丘を越えて行こうよ
「中身はどっかの演歌歌手だって言い張れ!言い張り通せば嘘から出た真が瓢箪から駒……」
「……何言ってんの?」
「兎に角言い張れ!頑張れ一也!」
「演歌歌手が瓢箪から駒じゃ、一曲歌えって言われかねないよ」
「そんときゃお前が歌うんだよ。のび太のくせにジャイアン張りの歌唱力で皆の記憶を消してしまえ…て、お前歌うとどうなるっけ?」
「いや、絶対歌わないから、俺は」
「やっぱのび太のくせにジャイアンなのか?あはは。でもな、それでも歌って貰うからな。場合によったら」
「…ピアノの先生なんだから詩音ちゃんが歌えばいいだろ」
「ははは。誰が歌うか。これ以上の人身御供はお前ひとりで十分だ」
「人身御供なんて人聞きの悪い」
「人身御供じゃん!アタシャもう遠回しーに離婚の原因に探りを入れられんのには飽き飽きしてんの!愛想笑いで顔が筋肉痛になってんの!あー、ムカつく!貝になりたい!」
「ああ、今年は終戦73年…」
「そうだけれども!それとアタシの離婚に何の関係があんのよ!イライラすんな、バ一也!」
「いや。貝になりたいとか言うから」
「揚げ足とんな!もーあっち行け!」
「言われなくてももう行かなくちゃなんないんだけど…大丈夫?詩音ちゃん?」
「大丈夫なワケあるか!いいからあっち行けッてば!会が始まんでしょ!?それよかネイガーの方は大丈夫なの?」
「アイツは大丈夫だよ。こういうの絶対向いてるから。素でイケる」
「…あーね。従兄弟同士だってのに、ホント似てないよね、アンタらは」
懸案のネイガーは、敏樹がやることになっている。確かにこれ以上ない適材だ。お調子者で運動神経がよく、まるっきり物怖じしない上に声も体もデカイ敏樹なら、ネイガーにぴったりだろう。何なら敏樹を止めてネイガーになってしまったらいいというくらいぴったりだ。
「逆にあまり調子に乗りすぎないように見てなきゃないから頭が痛い」
「それは加奈子さんがいたら大丈夫なんじゃないの?」
ぼやく一也に詩音はツンと顎を上げた。
何せ着ぐるみが重いので顎を上げるのもひと苦労、そのまま後ろに仰け反りそうになった頭を慌てて両手で押さえる。
「あだだ。無闇に動くと危ないぞ、これ」
「…詩音ちゃんこそ大丈夫なの?」
「しつこい!大丈夫じゃないって言ってるだろ、さっきっから!」