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第2章 並



二姉を除く兄嫁たちは彦左の従兄妹だ。婚期の遅れた彦左と跳ね返りの並、年も気性もちぐはぐな二人を心配しつつも面白がり、呑気に見守ってくれている。

兄嫁たちのお陰で、並は山の女が好きになった。

ずけずけと物を言い男の向こうを張って稼ぐ海の女と違って、山の女は穏やかで辛抱強い。海の女の捌けた気性は気持ち良いものだが、呑気な山の女も悪くない。

「山の暮らしは海とは違う。苦労もあろうが慣れるまでの事じゃ。彦のかかさまは優しいて、何より並が可愛いてならんようだから」

四姉の言う通り、彦左の母は孫程も年の離れた並を大層可愛がってくれる。節目の挨拶に山へ行く度、側に置いて離そうとしない程も可愛がってくれる。産まれたときも立ち会って、赤むくれの並をかかさまの次に抱いたと言うくらいだから、余程の事だ。

ずる、と湯漬けの汁を吸いきって、並は彦左の母を思った。

並よう、この晦日には彦に言うて、氷灯籠を造ってやろうな。
幾つも幾つも道すがらに並べて、山神様へ新年の挨拶に行こうや。山神様は気難しい御神様じゃが、何、きっとお前は気に入られよう。
気に入られん筈がない。こんなに可愛いお前だもの。

山長海長互いの血筋を交わらせての繁栄は、少々遠回りをしても血が淀むのが必定。山海の二長の家は短命の者が多い。

だから並はじじさまとばばさまを知らない。

けれど、山のかかさま、ととさまと居ると、じじさまとかばばさまとかいう者は、こんな風なのかと思う。だったら、並はじじさまばばさまが大好きだ。

「飯を食うたら洗い物をしようかの。かかさまとあねさまは休んでおれ」

並の言葉にかかさまと四姉は顔を見合わせた。

洗い始めた途端、三枚皿を割った並はあっと言う間に追い出され、またも厨を調べ損なった。









後は食物だけなんじゃが。

昼下がり、面白くもなく磯で小蟹を獲りながら並は焦り出していた。

夕餉の支度に入れば厨はずっと慌ただしい。漁の獲物の始末で誰彼なく裏口を行き来するし、夕餉の後は決まって酒になるから厨から火が落ちるのは夜も遅くだ。

今獲っている小蟹も肴として膳にのぼる事を考えると、忌々しくて仕方ない。

いっそ食物は要らんか?要らんな。魚を食えばいいんじゃ。海がありゃあ食うてはいける。

ここでふと並は眉を潜めた。

動きの止まった手の隙をシュッと蟹がすり抜けて行く。
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