第10章 丘を越えて行こうよ
「自分で考えろ、それくらい」
「………」
「だから黙るなって!」
「考えてんだよ!考えろって言ったのは詩音ちゃんだろ!」
「何か言いながら考えろっての!答えが出るまで暇だろ、こっちが!」
「話しながら考える程度のことなら考えなくていいよ。止めた」
「一也のくせに生意気だぞ!」
「幾つになってそんなこと言ってんだよ!俺はのび太じゃないんだから…」
「アタシだってジャイアンじゃないわ!」
「…………」
「…何で黙る?」
「いや、別に…」
「ムカついた!もうお前とは口きかない!」
「…ホント幾つなんだよ、詩音ちゃん…」
「同い年だよ!お前と!不本意ながら!」
「そんなことで不本意だなんて言われても困るよ。どうしたらいいわけ?」
「だから考えろって言ってんだろうが!頭のピントを合わせなさいよ!」
「ズレてんのは詩音ちゃんの方じゃないの?」
「よーし、よく言った。見上げた心意気だ!歯を食いしばれ!足を踏ん張れ!丹田に力を入れろ!歯医者の予約は済んだか!?保険証の準備はOK!?今日の救急担当の病院はチェックしたか!?」
「止めてって。通報とかしたくないし」
「民事不介入!」
「立派な傷害事件だよ!!」
あはは
「何笑っちゃってんの!?人を前科持ちにすんのがそんなに楽しいか!ヒトデナシめ!」
「…俺、笑ってないよ?」
「じゃあアタシが笑ったってか!?」
「違うの?」
「違うわ!!」
「じゃあ誰が笑ったのさ!?」
「知るかぁ!!!」
ははははは
「………」
「………」
小さな子供の笑い声がふたつ、重なって聴こえる。
「いやいやいや、何が可笑しいの、一也くん。笑い過ぎだよ、もう帰ろう」
「俺は笑ってないってば」
「やかましい!笑ってんだよ!お前が笑ってんの!そうすりゃ丸く収まるんだから黙って笑ってろ!」
ふふふ
「…………」
「…………」
詩音が一也の腕を引っ付かんだ。
一也が辺りを見回して、詩音に頷く。
アイコンタクトを交わしたふたりがいざ走り出そうとした瞬間、野太い声が夜道に響いた。
「おーい、一也ぁ!まずいぞ、おいィ!」
「何だ、何だ、今度は何だー!!!」
目を三角にして振り返った詩音が、パッと一也の腕を放してにっこりした。
「あら、柴田のおじさん。どうしたんですか」